小学生のころは、ずっと水槽を見ていた。
ぶうぅん、と、ろ過装置がうなる横で、ずっと水槽を見ていた。グッピーはきれいだ。細くて、ひれが赤や青に光っている。でも、死んだら他の魚と同じで、横になってぷかりと浮かぶ。それを見つけたら、網で死体をすくってお墓を作ってあげる。死んだらグッピーも天国に行くのかな。そんなことをぼんやりと考える。終始そんな調子だったから、私に友達はいなかった。それでも、なぜか中森くんだけは近づいてきた。そうして、一緒に水槽を見ている。
「魚って、死んだら天国に行くのかな」
中森くんは、恍惚とした表情で言った。私も同じことを思っていたけれど、確証はなかったから、さあ、と答えるだけにする。グッピーの横のちいさめの水槽では、赤い金魚が三匹泳いでいる。誰かが夜店でとってきて、持てあました金魚なのだろう。その中の一匹の体が、すこし斜めになっている。おばあちゃんは、そういうときは水に塩を入れるといいんだよ、と言っていた。先生に言って、塩をもらってこようか。でも先生だって、また私のことを変な目で見るのだろう。
「魚って、天国に行くと思う?」
中森くんは、また同じことを聞いてきた。私にはわからないから、わからない、と言った。でも、行けたらいいのにな、と思う。魚の死体は、早くすくってあげないと仲間に食べられてしまう。仲間に食べられて、ぷかりと浮いている魚はグロテスクだ。でも、中森くんは、そういうのだって恍惚とした表情で見ているのだろう。
教室は、もうすぐ始まる運動会に向けて盛り上がっている。けれど、わたしと中森くんは水槽を見ていた。

水槽は天国に似ている

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